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ブラームス ピアノ協奏曲第1番 ツィマーマン(P)&ラトル指揮ベルリン・フィル


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ブラームスのピアノ協奏曲は、私の心にもっとも親しく感じられる音楽です。
ほの暗い世界に一条の光がさすような第2番も素晴らしいですが、吹きあがるような熱情と瞋恚、むせかえるようなロマンティシズムを内蔵した第一番も、これに劣らず素晴らしいものです。
ブラームスの音楽はとてもデリケートです。心無いものの手にかかると、すべて台無しになってしまうような趣さえあります。
ここであげるのは、クリスティアン・ツィマーマン(ツィメルマン)が、サイモン・ラトル指揮ベルリンフィルと2003年に録音したものです。

ツィマーマンは、ポリーニ、アルゲリッチとともに、現代最高のピアニストといってよいでしょう。
これら3者に共通しているのは、いずれもショパン・コンクールの覇者だということですが、面白いほどその音楽性が違います。

ここでツィマーマンのピアノは、その表現の頂をすべて制覇した感があります。
ブラームスのピアノコンチェルト第1番を、彼はバーンスタインの指揮で20年以上前にも録音していました。そちらもむろん名演の名に恥じないものでしたが、ここではよりダイナミックで深い表現になっています。
なにより音楽がとても意味深くシリアスなものに進化しています。

第一楽章から、筆舌に尽くしがたいほど、【深い】ピアノの音が聴かれます。
大げさなことをいいたくはないですが、私の耳には、ほとんど【神業】に聴こえるほど、見事なピアノです。
恐ろしく繊細で、クリスタルのような響きは、極限までコントロールされています。
最弱音からフォルテッシモまで、一部の曇りもなく磨きぬかれ、余韻や情感にもいっさい不足していません。
それでいながら、表現の幅は、ほとんど眩暈がしそうなほど広大で、たったひとりのピアニストが、これだけの演奏を成し遂げてしまうことに、畏怖を禁じ得ません。
15:00〜16:35の音楽を聴いてください。
この恐るべき意味深さは生身の人間にはとうてい受け容れられないほどのものです。
ここでのピアニストは半神の印象すらあります。

第二楽章は秋雨の憂いのようです。
うっすらと雨が晴れ上がり、わずかな光を窓から眺めるような音楽。
とても詩的な楽章で、ブラームスの音楽のファンタジー(なにもそれは、シューマンだけのものではありません)を感じます。
孤独に耐えられなくなったとき、そっと労わってくれるような音楽。
心のひだのすべてに染み入るような音楽が、ここでは聴けます。
ピアノに神妙に寄り添うベルリンフィルのサポートも、ここで最高のデリカシーを見せています。

情熱がほとばしるような第三楽章こそ、この録音の白眉です。
師シューマンの死、その妻クララ未亡人への叶えられない思いが鬱積していたブラームスですが、そうした彼の感情は、ここでたとえようもないほど美しい音楽的純化を見せているのではないでしょうか。
凡庸なものとすぐれたものの差がこれほど現れる、恐ろしい音楽もまたとありません。
前者は白々しさが全体を支配し、後者では感動に全身全霊が打ち震えるほどです。
ここでのツィマーマンの演奏こそ後者の代表でしょう。
飛翔するピアノ、弾むようなリズム、一瞬も輝きを失わない、つねに誰よりも意味深い音。
こんなに激しい音楽なのに、どこまでも澄み切って、ピアノの音は純粋そのものなのです。
至純、といってもいいかもしれません。

どんな一音にも、確かな意味があると納得させるツィマーマンのピアノに、ラトルがベルリンフィルを駆使して、最良の伴奏をつけています。
いうまでもなく、ブラームスほど、伴奏たるオーケストラが重視されるコンチェルトを書いたものはいません。
ピアノ付交響曲とさえいわれるゆえんですが、ラトルの指揮は楽章を追うごとに充実し、最終楽章では、俊敏かつ強靭なサウンドで、ツィマーマンのピアノを万全に支えてています。
バーンスタインの指揮で伴奏をつけた旧盤のウィーンフィルも素晴らしかったですが、ラトルの指揮は、シリアスな偉大さではバーンスタインに及ばないにしても、俊敏さやデリカシーでは凌駕しているように思えます。

7:50〜ラストまで、まさに両者が一体となって、一音たりとも聞き逃せない感動の音楽です。
私は、いつ聴いても、平静ではいられないほど心を動かされてしまいます(ですから人前では決して聴けません)。

生きていて良かった、とさえ思えるのです。

最高の名曲、最高の演奏(ピアノ、伴奏)、最良の録音がされたこのCDを、最大限の推薦とさせていただきます。
まさに21世紀を代表する名盤であり、ブラームスの第1番は、この演奏を聴かずに今後語れないほどのものですし、ブラームスの音楽全体を通してみても、第一級の素晴らしい演奏記録と思います。

ぜひご一聴下さい。

(録音 2003年)

DISC Recommend
1 演奏 ★★★★★
2 録音 ★★★★★
3 不朽 ★★★★★
4 買得 ★★☆
5 必須 ★★★★★


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この記事のコメント

このピアノ協奏曲は、私の感想として本当に追い立てられるようです。長男が大学時代に心身不調になり心痛の思いで聴いた思い出は忘れられません。追い立てられ、切羽詰まった気分で聴く第二楽章は切実な祈りであり、慰めでもあります。私にとってはエンドレスで聴きたい楽章の一つです。
ピアノがアラウ、クーベリック・パイエルン放送交響楽団(1964ライブ)が私の愛聴盤です。第二楽章では咳の音もはっきりと入っており、後半の切々と歌うオーボエが「おっと!」と思えるほど音を外したりしますが・・・。その点ポリーニ、アバド・ベルリンフィル(1997)は完璧です。冒頭から気合いが入っています。紹介のCDは名盤と言われていますので、近い内に購入します。
2008-03-08 Sat 16:36 | URL | YI #-[ 編集]
コメントありがとうございます。
ポリーニの新録音ですが、私はあまり好きではありません。ポリーニのすさまじいところは、尋常の人間が心身ともに無関心ではいられないような場面でも、決して己のペースを失わない超然としたスタンスなのですが、それが最高度に発揮されたブラームスがアバド/VPOと入れた旧録音のブラームスの二番ではないでしょうか。
旧録音の一番も優れた演奏ではあるとおもいますが、ベームの指揮が硬直しがたなのがいかにも残念です(アバドなら、、と思います)。

また、もちろん新録音の一番、二番は、彼でなくてはなしえない演奏でもありますが、いずれもピアニスティックな冴えでは旧盤を凌駕していないように思います。

アラウとクーベリックのもの、気になっているところです。いずれ聴いてみたいもののひとつです。
2008-03-08 Sat 21:36 | URL | 北国タクト #dBXh/C6s[ 編集]

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