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チャイコフスキー 後期交響曲集 ザンデルリング指揮ベルリン交響楽団


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旧東独の名指揮者ザンデルリング。
彼のような存在こそ、やや地味ながら【隠れた巨匠】とでも言うべき音楽家だと思います。
ザンデルリングはフロイセンの生まれですが、ナチス政権から遠ざかる為にロシアに亡命した経験を持ち、戦後は東独で指揮者活動を行いました。スウィトナーやレーグナーらとともに、かの国では中心的存在であった指揮者でした。
ロシア亡命の際に、ムラヴィンスキーの下でレニングラードフィルの指揮者をも務めた経緯から、チャイコフスキーがザンデルリングにとって重要なレパートリーとなったであろうことは、容易に推察されます。

ですから、ここでの録音も、いかにもザンデルリングらしい豪快さを持ちながら、ロシア的な哀愁をそこここに漂わせて不足するところがありませんし、悠場迫らぬ足取りは、軽騒に演奏されがちなチャイコフスキーの音楽を、見事な立体物として描き出していて、いかにも素晴らしいです。
凡庸な指揮者が、あわただしくせわしなく演奏することで、チャイコフスキーの本来ロマンティックで夢みるような音楽を、いかにも安っぽい、イミテーション的なお遊びに堕させてしまうことがきわめて多いなか、このような交響体としての充実を見ると、彼の作品をブラームスやベートーヴェンに比して低くみなしがちな方にも、ぜひ再認識の意味で聴いていただきたい、稀有の名演として価値をもつように思われます。

たとえば第4番の最終楽章など、ラプソディックな面もある楽想なのに、けっして軽々しい音楽にならず堂々たる終結を作りえていますし、チャイコフスキーの【英雄交響曲】と呼んでよい傑作、第5番のきわめて意味深い響き、ずっしりとした足取り、シリアスで高貴な悲劇の表出といった長所は、他の指揮者では得られないだけのものがあります。
第6番『悲愴』は、冒頭からほの暗い暗黒を並々ならぬ緊張感で表現していて、オーケストラの力量と、指揮者の胆力にも驚かされますが、それがフィナーレまでいっさい途切れずに継続するという点にこそ評価を与えたいと思います。
力強く、ヒロイックな響きでグイッと描かれた演奏で、これだけの巨大なチャイコフスキーを、現代の指揮者に求めるのはもはや難しいのではないでしょうか。
嫋嫋たる旋律でもけっして女々しくならず、【大地が泣いている】ような偉大さを感じさせるのは、感動的でさえあります。
しかもそれを支えているのは、オーケストラの充実しきった抜群の力量です。
西側のベルリンフィルのような洗練は望めませんが、無骨ながら音楽性豊かで、職人的なオーケストラなのは間違いなく、そのサウンドも重厚で素晴らしいです。

おそらく実演に接していれば、胸をうたれて言葉もなくすであろう偉大さをそなえた演奏なのですが、そうした名演にありがちなとっつきにくさもなく、これらの傑作の姿を、たとえばはじめて聴く方にも、実にわかりやすく、また魅力的に聴かせてくれるであろうという点で、ひとつの理想的録音であることは、驚異的ですらあります。
けっして音楽が媚びたりしないのに、その真の姿をたちどころにあらわにしてしまうというのは、この指揮者が持つ稀な能力のなせる業でしょう。
なにも変わったことはしていないのに、その音楽性だけでここまでの演奏にしてしまうことが、むしろザンデルリングの凄さといえるのではないでしょうか。

録音は、特にベルリン交響楽団のすぐれた低弦をとらえていて見事です。
空間表現も充分にできていますし、管楽器の燻し銀のような音色の質感もよく、この名演を存分に楽しめる良好な録音であると思います。

このディスクは、オリジナルではLP3枚分だったチャイコフスキーの後期交響曲集をまとめたもので、それだけでもたいへんなお買い得感があるものです。
これだけの演奏・録音がこの価格なら、ぜひお聴きいただきたいCDです。
極端なことをいえば、聴き比べに興味がないような方であれば、チャイコフスキーの後期交響曲集はこのCDさえあれば用が足りるほどのものです。

(録音 1979年)

DISC Recommend
1 演奏 ★★★★
2 録音 ★★★★
3 不朽 ★★★
4 買得 ★★★★★
5 必須 ★★★☆


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