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マーラー 交響曲第10番(クック版) ギーレン指揮南西ドイツ放送響


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マーラーの交響曲第10番は、作曲者が完成させることができなかった作品です。
クラシックの世界には、こうした未完の有名曲がいくつもあります。
たとえばシューベルトの『未完成』交響曲や、ブルックナーの交響曲第9番、モーツァルトの『レクイエム』などもよく知られています。
これらのほとんどが作曲家の最晩年の作品であるだけに(シューベルトはやや事情が違いますが、円熟期の書法には間違いないです)、その音楽の素晴らしさはまさに悼尾を飾るだけの傑作に値するものです。
マーラーの交響曲10番は、このなかでも特に【未完】の度合いが甚だしく、シューベルトのように完成部分が仮にもあるようなものでも、モーツァルトやブルックナーのように過半を書き上げていたというわけでもない、まったくの未完作品です(第1楽章でさえ完全には仕上がっていなかったのです)。

しかし、どうしてもマーラーの最後の作品を聴いてみたいという思いはやみがたく、残されたスケッチを元にしてマーラーの未亡人アルマ(彼女自身作曲家としてのキャリアを持っていた才媛でした)や、彼女の遺志を継いだ人間が錚々たる作曲家たちに楽譜完成の依頼を行ってきました。
そのなかには、シェーンベルクやショスタコーヴィチ、ツェムリンスキーといった大物の名前も散見されます。
こうした努力にもかかわらず、完成は困難を極め、光明が見えたのはイギリスの音楽学者デリク・クックの出現を見てからでした。
紆余曲折を経てクックが完成させた第10番は、アルマをも感動させ、全世界的にクック版として広まってゆくことになったのです。
その最新のものは、1989年に出されたクック版第3稿(第2版)です。

過去、何人かの指揮者がクック版で10番の演奏・録音に取り組んできました。
たとえばザンデルリングの名演があり、ラトルの挑戦的な二度の録音があり、シャイーによる美しさの限りの美演がありました。
しかしながら、マーラー自身の手によるものではないオーケストレーションは、クック版の誠実さをもってしても、想像力で響きをおぎなわねばならない部分が多く、完全な満足を与えてくれるものはありませんでした。
私自身の好みでいうと、わずかにザンデルリングだけが、満足しうるマーラー象を提供できたように思いますが、説得力を持ち得た代りに、いかにも荒削りのものではありました。
だからこそマーラーは天才でもあったのでしょうが、新時代の名演というべきギーレン盤が現れてきたことで、一気に存在感を増したように思います。

ギーレンは現代音楽の解釈者として権威的存在ですが、その流れの源流としてマーラーを把握しており、スコアの理解度には、凡百の指揮者がとうてい及ばないものがあります。
ただ、彼のスコアリーディングと演奏が、必ずしも幸福に結びつく録音ばかりでもなかったのではありますが、ここでの第10番こそは、両者の完全な融合が最大限望ましい結果をもたらした名演となっているのです。

ギーレンはクックを称え、『完全にマーラーの精神を現している』と語ったとされますが、それを裏付けるかのように、かつてどの盤からも聴かれなかったほどマーラー的な響きがこの録音には収まっています。
かつて薄い部分もあることを覚悟せねばならなかったクック版のオーケストレーションは、ギーレンの手法によって多くの部分がフォローされていますし、すぐれてソフィスケートされたオーケストラは文句の付け所がないほど美しいものです。
かといってエモーショナルな部分での共感がないがしろにされているわけでもなく、美しいながら際立って哀切な音楽、切実な魂の希求となっているのには涙を禁じ得ません。

第5楽章のシリアスな表現もここにきわまった感があり、かつて聴いたことがなかったような響きが頻出します。
この演奏が出た以上、今後、マーラーの第10番へのハードルはとても高くなると思えますし、また逆に、指標となって後進を導くだけの力を持ったのだと思わざるを得ません。

ギーレンの、というだけでなく、またバーンスタイン以後、という括りだけでもなく、マーラー演奏史において、無視することのできない業績として、この録音を位置付けたいと思います。
録音・演奏・そしていわば未知の名曲であった第10番の真の姿を明らかにしたプロジェクトとして、必ず後世に残るものになるでしょう。
このサイトで紹介するものとして、やや価格は高いですが、マーラーの音楽を愛する方にはぜひお聴き頂きたいと思います。

(録音 2005年)

DISC Recommend
1 演奏 ★★★★★
2 録音 ★★★★★
3 不朽 ★★★★★
4 買得 ★★☆
5 必須 ★★★★★


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