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マーラー 交響曲第1番『巨人』 ワルター指揮コロンビア交響楽団


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マーラーの交響曲第1番『巨人』は、青春の音楽である。
作曲家が28歳で書いた作品だから、というだけではなく、その内容の感じ易さ、激しやすさ、勇ましさ、将来へのぬぐえぬ不安、どれをとっても青い炎が燃え盛るのが見えるような音楽なのです。

マーラーは、いくつかの習作のあと、この『巨人』を書きました(このタイトルは、現在、作品の内容と関係ないものです)。
第1番のシンフォニーとしての完成度は、とても高くて、これに匹敵する第1番は、ブラームスしかないくらいです。
書法はすでに鍛錬の必要がないほど磨かれていますし、個性の証が作品中にちらばめられて、そのまぶしさにはめまいがするほどです。
青葉の吹き出るような第一楽章のみずみずしさ、うきたつ心を抑えられない第二楽章のときめき。
将来へのおののきをこめられた第三楽章は、すでに晩年のテーマの萌芽をすべて聴き取れるほどグロテスクです。
そして、勝利と歓喜の爆発である第四楽章。
マーラーの作品中、もっとも古典的均整のとれた交響曲でありながら、感情の振幅は、彼以前の作曲家の常識をはるかに超えているのです。

ベルリン生まれの名指揮者、ブルーノ・ワルターがマーラーの弟子だったことはよく知られています。
マーラーは生前、作曲家としてより、むしろ世界最高の指揮者として名声を得ていましたが、そのアシスタントとして頭角を現してきたのが、まさにワルターその人でした。
マーラーの死後に交響曲第9番や『大地の歌』の初演をおこなったのは、ほかならぬワルターでした。
彼以外にも名指揮者クレンペラーがマーラーの薫陶を受け、メンゲルベルクもまた作曲家から信頼されていましたが、生涯の親友といってよかったのは、ワルターただ一人だったといいます。
ワルターはユダヤ人でしたから、ナチスドイツの台頭に身の危険を感じ、逃亡と亡命を重ね、ついにはアメリカに至ります。
戦後も活躍を続け、いったん引退した彼に、専属のオーケストラによる、主要なレパートリーのステレオ録音計画が持ち上がりました。
この専属オーケストラが、コロンビア交響楽団と名づけられた団体です。
ワルターは、最長でも一日に二時間という約束で、ふたたび録音を開始します。
それは、なんという孤独な芸術の精華だったのでしょうか。
故郷を追われ、悲劇により娘夫婦も失って、たどりついた異郷の地で、彼は名演を残したのです。
それが、名高いベートーヴェンの『田園』やブラームスの『第四番』、シューベルトの『グレイト』といった録音です。

そして、彼の死の前年に録音されたのが、このマーラーでした。
じつにワルター翁85歳。
ですが、これが老人の音楽でしょうか?
あくまで音楽は生き生きと躍動し、純粋さを微塵も失っていません。
驚異的な若々しさなのに、細部まで意が尽くされ、万全の出来栄えです。
身振りの大きいバーンスタイン盤(コンセルトヘボウも、ニューヨークも)も名盤ですが、むしろそれらよりスケールの大きさで勝っていると思わせるのは、真に偉大な、ワルターという指揮者のすごさでしょうか。
バーンスタインのような没入的指揮ではありません。というより、慈愛に満ちた理性で、師の音楽を、すみずみまで再現し、普遍的な感動にまで高めています。
この録音をおこないながら、ワルターの胸中には、どんな感情が去来していたのでしょうか?
まさに歴史の証人でもあった、ひとりの偉大な音楽家の人生を、この録音に聴くように思うのは、私だけではないでしょう。

それはマーラーの人生を、聴く思いでもあるのでした。
私は、彼の第9交響曲を聴いたあとこそ、この第1番『巨人』を聴き返したくなります。
かならずしも幸福ではなかったマーラーという人間の、彼の長い旅のはじまりと、その終焉が、そこには見えるようです。

録音はステレオ初期のものとしては上質です。
リマスタリングのたびに音がよくなっていますが、とくに低音の響きは特筆すべきものがあります。
ただ左右の分離はいまいちで、これは年代を考えるとやむなしですが、それでも充分に好ましい音であると感じられます。
CDのバージョンによって音がかなり変わりますから、なるべく最新のものをお求め下さい。

(録音 1961年)

DISC Recommend
1 演奏 ★★★★★
2 録音 ★★★☆
3 不朽 ★★★★★
4 買得 ★★★
5 必須 ★★★★★


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